
コロナ禍で監査法人に入り、思い描いていたような経験を積めないもどかしさを抱えていた石山さん。周囲が着実にステップアップしていく20代後半、彼女が選んだのは、一度キャリアを止めて海外へ短期留学するという選択でした。
迷いを抱え、立ち止まり、試行錯誤を繰り返す中で、彼女はいかにして自分だけの「納得のできる道」を見つけたのか。CPASSキャリアが数年にわたり伴走し、二度の転職支援を通じて共に模索してきた、ある公認会計士の等身大の歩みを紐解きます。
石山祐子(仮)さんプロフィール
公認会計士試験合格後、BIG4系監査法人に入社。約4年間にわたり、大手企業の監査現場で実務経験を積む。その後、幼少期の思い入れのある地中海のマルタ島へ短期留学。帰国後は会計事務所を経て、30歳を機に大手メガベンチャーへ転職。

担当キャリアアドバイザー
清水知美。CPASSキャリア マネージャー。国家資格キャリアコンサルタント。公認会計士、USCPA、税理士および管理部門で働く方々のキャリアサポートに10年間従事。
目次
監査法人での葛藤とキャリアの悩み。公認会計士が直面した現実
── まずは石山さんが公認会計士を目指した原点をお聞かせください。
石山氏 きっかけは大学時代の簿記の授業でした。ルール通りに仕訳を行うと数字がピタリと合う感覚がパズルみたいで面白かったことを覚えています。そこから「会計という世界の共通ルールを学べばどんな会社でも活躍できる」と思い、本格的に資格取得を目指しました。
── 合格後に入所した大手監査法人で、理想と現実のギャップに戸惑ったそうですね。
石山氏 はい。実力不足だった部分もありますが、私は監査という業務に対して、自分自身の適性がうまく噛み合っていないのではないかと感じていました。監査法人に4年間勤めましたが、その間ずっと、仕事の性質と自分の価値観の間に距離を感じていたのです。
── 具体的には、どのような点に違和感があったのですか?
石山氏 監査の役割は、財務諸表に重要な虚偽表示がないかを検証することです。そのために、潜在するリスクを適切に評価し、そのリスクに対応する手続を積み重ねていく必要があります。また、単に不備を指摘するだけでなく、改善提案を通じてクライアントに付加価値を提供するという重要な役割も持っています。
このため、どれだけ素晴らしい経営をされている会社であっても、監査人である以上は常に職業的懐疑心を持って接しなければなりません。一方で、細かな整合性を確認していく作業の先に、企業の成長を支えているという実感がなかなか持てず、日々もどかしさを感じていました。
── その違和感が、コロナ禍で決定的になったと。
石山氏 本来であれば、現場で先輩方の立ち振る舞いを間近に見たり、何気ない会話から監査の奥深さを学ぶことができるはずです。ですが、リモートワークが急速に進む中で、パソコンの画面越しではコミュニケーションがままならず……。目の前のタスクを完結させることに終始してしまい、実務の全体像が見えないまま手探りで進んでいる感覚がありました。
── 成長する機会が得にくいと感じていたのでしょうか。
石山氏 はい。もちろん今振り返れば、私自身がもっと積極的に、自分から食らいついて教えを請うべきだったという反省もあります。ですが当時は、孤独にPCと向き合う中で「何が正解か分からないまま漠然と時間が過ぎていく」という感覚が強く、その壁を自分一人でどう突破すべきか、具体的な一歩が踏み出せずにいました。
監査人としての監査手続を一つひとつ積み重ねていく中で 、この環境で4年、5年と続けていった先に、自分が理想とするプロフェッショナルな姿があるのか。その問いに対して、どうしても自信を持って頷くことができなくなってしまいました。

転職か留学か。キャリアの迷いを相談できたCPASSキャリアとの出会い
── 転職を意識した際、最初から海外留学を視野に入れていたのですか?
石山氏 幼少期を海外で過ごしたこともあり、以前から「もう一度海外で生活したい」という思いはありました。ですが、当時の私は27歳。同期たちが実務経験を積み、シニアスタッフへの昇格を意識し始める中で、自分だけがキャリアを中断することに大きな不安を感じていました。
「現実逃避ではないか」、「今ここで足を止めたら、もう戻ってこれないのではないか」と。周囲との比較の中で、自分の意思を前向きに捉えられずにいました。
── そこから、どのようにCPASSキャリアと出会ったのでしょう。
石山氏 手始めに大手の転職エージェントに登録してみたのですが、面談がよく言えば効率的、悪く言えば事務的に進んでいくことに違和感を覚えました。私の迷いに耳を傾けてもらえず、「次にどこへ転職するか」という結論を急がされているような気がして。
そんな時、同じ監査法人に務める同期から「CPASSキャリアなら、もっとじっくり話を聞いてくれるよ」と教えられたのです。その言葉を信じて、まずは今のモヤモヤした胸の内を聞いてほしいという思いで連絡をしました。
── アドバイザーの清水と初めて面談した際、どんなやり取りがあったのでしょうか。
石山氏 私が「本当は海外に行きたいけれど、空白期間が不安で……」と迷いを打ち明けた瞬間、清水さんはきょとんとした顔で「え、行ったらいいんじゃないですか?」と、すごくあっけらかんと言っていただきました。
その瞬間、とても気が楽になりました。「何が不安なんですか? 27歳ならいくらでも方向修正がききますよ」という軽やかな肯定の言葉に、どれほど救われたか分かりません。
── 面談で、その後の方針はどう決まったのでしょうか。
石山氏 清水さんは「今は無理に転職先を決めなくていい。まず留学に行って、自分の感覚をリセットしてみましょうよ」と背中を押してくれました。「その空白期間をマイナスと捉えるような会社は、どのみち石山さんには合わないから大丈夫」という言葉で、完全に踏ん切りがつきました。
今は自分を癒やし、可能性を広げる時期という明確な方針を持てたことで、安心してマルタ島へ旅立つことができました。
AI時代を見据えた2度目の転職。会計士としての譲れないキャリアの軸
── 留学を終えて帰国された後、転職先として中小の会計事務所を選ばれましたね。
石山氏 はい。清水さんと再会したとき、「監査法人のガッチリした組織に息苦しさを感じているなら、一度その対極にある、自由度が高くクライアントに深く入り込める環境を経験してみては?」とアドバイスをもらい、ハッとしました。
それまでは次の転職先を「一生モノの正解」にしなければと身構えていましたが、まずは自分の可能性を試すために、あえて環境を大きく変えてみようと思えたのです。
── 約2年で、再び転職を決意されたきっかけを教えてください。
石山氏 AIの台頭によって、会計専門職に求められる役割が大きく変わると実感したからです。これまで私たちが提供してきた知識の共有や定型的な相談は、今後さらに効率化されていくでしょう。その中で、プロとして価値を提供し続けるためには、より高度な判断や複雑な課題解決に集中できる環境に身を置くべきだと考えるようになりました。
── 組織のあり方についても、ご自身の中で優先順位が変わってきたようですね。
石山氏 はい。前職のような小規模な組織には柔軟な良さがある一方で、どうしても業務プロセスが個人の判断に委ねられ、属人化しやすい側面もありました。日々の調整において、仕組みよりも属人的な関係性に依存する場面が増えるにつれ、私自身、もっとルールや透明性が確保された環境の方が、安定して力を発揮できるのではないかと気づかされました。
メガベンチャーへの転職で掴んだ納得のキャリア。自分らしい働き方の実現
── そして現在、メガベンチャーで活躍されています。清水からこの提案を受けた時はどう思われましたか?
石山氏 最初は「メガベンチャー?」と驚きました。もっと堅い業界をイメージしていたので。でも清水さんは「石山さんのフラットなコミュニケーションのスタイルなら、絶対に合う」と断言してくれました。 実際、今は居心地が良いです。日々の挨拶やランチ、何気ないやり取りから信頼を積み上げている実感があり、ようやく自分に合う働き方が見つかった気がしています。
── 実務面での手応えはいかがでしょうか。
石山氏 今は連結決算などを担当していますが、上場企業の数字の動きをダイレクトに感じられるのはとても刺激的です。将来的には、会計だけでなく財務の領域にも関わってみたいという興味が湧いてきました。
長期的なビジョンはまだ描けていないですが、今は信頼できる仲間と、筋の通った仕組みの中で、一歩ずつ専門性を広げていくことに集中したいですね。その積み重ねが、自分にとって一番の幸せだと気づけたことが、この転職の最大の成果です。
── 最後に、キャリアに悩んでいる会計士の方へメッセージをお願いします。
石山氏 もし今、現状に対して何らかの居心地の悪さを感じているなら、その感覚を否定せずに受け止めてほしいと思います。転職活動は、必ずしもキラキラした「やりたいこと」を見つけるためのものだけではありません。「自分はどのような環境なら、無理なく力を発揮できるのか」という、自分の境界線を知るための大切なプロセスでもあるからです。
一人で抱え込んでいると、それは単なる現状への行き場のない不満として、自分を苦しめてしまうかもしれません。でも、CPASSキャリアのような場所に今の正直な気持ちを話してみることで、そのモヤモヤが「次はどのような場所を選ぶべきか」という客観的な判断材料に整理されていきます。立派な志が最初からなくても大丈夫です。
私もそうだったように、自分の本音を受け止めてもらえる場所があるだけで、視野が広がるのではないかと思います。










