
公認会計士試験は、その難易度の高さゆえに多くの時間とエネルギーを要する挑戦です。たとえ合格という結果に至らなかったとしても、その過程で培われた知識、経験、そして精神力は、決して無駄にはなりません。そして、次のステージに進むためには、努力を継続することと同じぐらいの覚悟と決断力が必要になる瞬間もあります。今回は、大学生活の多くを公認会計士試験の勉強に捧げ、4回の挑戦を経て、大学4年生という節目で「就職」という新たな道へ舵を切った飯島啓太さんの体験談をお届けします。
(記事公開日:2025年12月4日)
飯島啓太さんプロフィール
埼玉大学経済学部在学中に簿記の勉強を始め、2年生から公認会計士試験の受験勉強を本格的に開始。大学生活と勉強を両立させ、4回にわたり短答式試験に挑戦。4年生になり、新卒でのキャリア形成を見据えて就職活動への切り替えを決断し、会計・経理業務のアウトソーシングを手がける企業に内定。試験勉強で培った会計や法律の知識と、面接で評価された高いコミュニケーション能力を武器に、経理職への道を切り開いた。
1.知的好奇心から始まった会計士への挑戦
ーー会計士への挑戦は、大学1年生の時の簿記との出会いが原点だったと聞いています。実際に触れてみて、どんなところに面白さを感じましたか?
飯島 そうですね。大学に資格学校と提携した簿記講座があって、それを興味本位で受けてみたことが一歩目です。簿記は「借方」や「貸方」など初めて触れることが多くて戸惑いましたが、ルールを覚えれば必ず答えに辿り着ける。その達成感にハマって、1年生で簿記3級と2級を取得しました。特に将来を見据えていたわけではなく、「自分の可能性を試してみたい!」という前向きなチャレンジ精神だけで勉強を頑張っていました。
ーー知的好奇心が原動力だったんですね。そこから公認会計士試験という、さらに高いハードルを目指すことになった理由とは?
飯島 2級に合格した後、次は1級の勉強に進もうと思っていたのですが、そこまでレベルの高い勉強をするなら、腹をくくって公認会計士を目指そうと思ったんです。公認会計士の試験は簿記1級に相当する知識が求められますし、どのみち勉強するのであれば、より難易度の高い資格に挑戦したいな……と。私は他校の講座を受講することにしたのですが、勉強を始めてからはCPA会計学院に通っている先輩とも知り合ったりして、同じ目標に向かう仲間たちと情報交換しながら切磋琢磨することができました。
2.4回の挑戦と「区切り」の決断力
ーー短答式試験の初挑戦は大学2年の12月。手応えはいかがでしたか?
飯島 最初は勉強量が十分ではなかったのですが、腕試し的な感じで受験しました。予想通り結果は良くなかったですが、絶望するほどではなくて。この試験は必ずしも受験者の才能を求めるものではなく、努力を積み上げていけば取れる資格だと信じていたので、1回の挑戦で諦めるつもりはありませんでした。しかし2回目(大学3年生の5月)の挑戦も手応えが結果が悪くて、そこで勉強の継続を諦めそうになった時期もあります。
ーー多くの受験生が直面する悩みだと思います。大学生活との両立も大変だったのでは?
飯島 勉強は面白いのですが、いかんせん出題範囲が広くて。大学に通いながら毎日6~7時間は勉強していたので、アルバイトやサークルに励む余裕はなかったです。周囲の同級生が大学生活を謳歌している中で、我慢した部分はもちろん色々あります。でも、一度やると決めたことなので、「納得するまでやり切ってみよう」と、勉強の継続を決めました。
ーーご自身の中でタイムリミットは決めていたのですか?
飯島 はい。4回目の挑戦をする頃には大学4年生になっていたので、「これが最後かな」と思ってました。就職活動や卒業論文などいろいろな事情もありましたし、浪人してまで勉強を続けるという選択肢は考えていなかったです。大学4年間で、自分なりにやれるだけのことはやった。それならば、ここで区切りをつけて次のステージに進み、新卒として社会に出ることを目指す方が合理的だと判断しました。我ながらスッパリと切り替えましたね。
3.試験直後からの「即時行動」。就職へのシフト
ーー最後の短答式を終えた直後、燃え尽きて何も手がつかない期間はありましたか?
飯島 いえ、呆然とするような時間はなかったですね。同級生の友人に「もう5月末だし、来週応募が終わる企業もあるから早めの方に動きなよ」と現実的なアドバイスをもらって。すぐに複数の情報サイトに登録して、本腰を入れて就職活動に取り組みました。
ーーその迷いのない決断力、素晴らしいです。CPASSキャリアを活用された経緯を教えてください。
飯島 私はCPA会計学院の受講生ではなかったのですが、YouTubeで同校の植田有祐先生が短答式試験のボーダーラインを予測する動画を見ていたら、CPASSキャリアが主催する合同企業説明会のことを紹介されていました。「これは行くしかない!」と思いましたね。これまで会計士の勉強で積み上げてきた知識を活かせる仕事がしたかったので、会計ファイナンス業界に特化しているCPASSキャリアは理想の転職エージェントだったんです。
ーー実際のところ、他社エージェントと比べてどんな違いがありましたか?
飯島 業界特化型だからこそ、やはり紹介していただける企業さんが多いと思いました。他社エージェントだと、そもそも経理職の求人をほとんど扱っていなかったり、扱っていたとして待遇が良くないケースが多い印象でした。そこが最大の違いでしたね。
4.武器としての「知識」と「人間性」
ーー面接の場では、ご自身のどんな強みをアピールされましたか?
飯島 CPASSキャリアで紹介していただく企業は会計の知識が求められることが多いので、これまで勉強してきたことを具体的にアピールする必要があると思っていました。ただ、それ以上に意識していたのは「はっきり話す」ことです。勉強三昧の日々を送ってきた私は、自己アピールの話題が豊富ではありません。せめて人柄を評価していただけるように、誠実な受け答えをするように努力しました。その点に関しては、CPASSキャリアの古牧さんが 「飯島さんはコミュニケーション能力が高い。自信を持ってください」と励ましてくださったので、面接前の不安が和らいだ記憶があります。どの企業でも、面接が決まる度に古牧さんや各企業担当のアドバイザーさんが「面接で想定される質問」などの情報を提供していただいたので、本当に助かりました。人生の恩人だと思っています。
ーー内定先のBTKソリューションさんに魅力を感じたのはどういうところですか?
飯島 たくさんあります。親会社が会計事務所なので専門知識を吸収しやすいこと、会計業務のアウトソーシングを請け負うので幅広い企業の会計処理に携われること、オフィスの立地、面接を担当してくださった方々の雰囲気、すべてに惹かれました。内定が出た瞬間は、やっぱり安堵しましたね。新卒で社会に出るという目標が叶って嬉しかったです。
5.努力は「財産」に、決断は「未来」になる
ーー4年間の挑戦を経て、飯島さんの中に「財産」として残ったものは何でしょうか?
飯島 会計や法律の知識を幅広く学べたので、そこは間違いなく良い財産になっているはず。例えば「財務諸表を見る力」は、ビジネスパーソンとして数字に基づく判断をするための土台になる。今後一生、このスキルは自分を支えてくれると思っています。
ーー勉強を中断し、就職へ切り替えるか、迷いながらこの記事を読んでいる方も多いと思います。「後悔しない選択」をするためには、何が一番大事だと思われますか?
飯島 「やりきった」という感覚を持つことが、何より大切だと考えます。自分の持てる力をすべて注ぎ込み、「これ以上は無理だ」と断言できるほど努力する。そこまでやっても結果が出なければ、たとえ合格できなくても「縁がなかったのだ」と納得できるはずです。
ーー飯島さんも、大学4年という時間を捧げて「やりきった」。その自負があったからこそ、迷いなく次の道へ進めたわけですね。
飯島 周りより遅いスタートだったので、焦りがなかったわけではありません。でも、それ以上に「やりきった」という確かな実感があった。だからこそ、迷わず気持ちを切り替え、「今から応募できる企業の中からベストな選択をしよう」と、すぐに集中できました。
ーー4月からの新生活と、今後のビジョンを教えてください。
飯島 最初はSPC(特別目的会社)の経理記帳代行を担当すると聞いていますので、早く仕事を覚えて会社に貢献していきたいです。今後の目標としては、まず簿記1級を取得すること。会計士の勉強で蓄積した知識がありますから、働きながらでも挑戦し、まずはそこを目指すつもりです。数年後には、専門知識を活かして大きなプロジェクトを任せてもらえるような、会社の中で信頼されるポジションを目指していきたいですね。
ーー最後に、飯島さんと同じように、試験勉強とキャリアの間で悩んでいる受験生へメッセージをお願いします。
飯島 就職活動では、サークル活動などの華やかな経験がなくて「ガクチカで話すことがない」と不安になる人もいるかもしれません。でも、難関資格に本気で挑戦したという事実は、それ自体が誰にも負けない強力なアピールポイントになるはずです。 面接でも「なぜ会計を?」と聞かれた時に、自分がどれだけ真剣に取り組んできたかを具体的に話せますし、その熱意や知識は、他の学生にはない「説得力」になっていたと感じます。 たとえ試験に受からなくても、必死で努力した事実は必ず自分の血肉になっている。それは、次のキャリアに進む上で一番の武器になるはずなので、ぜひ自信を持ってほしいです。


