企業活動において、欠かせない経理部門。そんな経理部門のトップが「経理部長」です。経理部長は会計ファイナンス領域において、高い専門性と責任が求められます。
では、そのポジションに就くと、どれほどの年収が期待できるのでしょうか。
本記事では、経理部長の年収相場を紹介するとともに、経理部長に求められるスキルなどを解説します。
さらに、経理部長になった後のキャリアパスについても紹介していますので、経理職で転職を考えている方や経理部長を目指す方はぜひ参考にしてください。
経理部長の平均年収|企業規模別の比較
経理人材は売り手市場が続いており、今後も高度なスキルが求められる状況が続くと予想されます。
前提として、継続的な学習やスキルアップ、デジタルリテラシーの向上など、時代の変化やニーズに適応する必要があります。
ここからは、企業別の経理部長の年収目安を見ていきましょう。
【企業規模別】経理部長の年収レンジ
(CPASSキャリア編集部 作成)
大手上場企業
大手上場企業の経理部長の年収レンジは「1,200〜2,500万円」です。
経理部長を務める年齢層は40〜60代と幅広く、年収は企業規模や個人の能力、業績に応じて異なります。
- 大規模企業(従業員数5,000人以上、売上高1兆円以上):約1,800〜2,200万円
- 中規模上場企業(従業員数1,000人〜5,000人程度):約1,400〜1,700万円
後述する新興上場企業と比較すると、企業規模に応じて経理部長の年収に差が生じることがよくわかります。
新興上場企業
新興上場企業の経理部長の年収レンジは「700〜1,500万円」です。
- 小規模な新興上場企業:700〜1,000万円
- 中規模の成長企業:1,000〜1,200万円
- 時価総額が大きく成長性の高い企業:1,200〜1,500万円
規模の大きな新興上場企業であれば、大手上場企業の経理部長の年収を超える可能性もあります。
また、株式報酬を導入している企業も増加しているため、年収は企業によって大きく変動する傾向にあります。
上場子会社
上場子会社の経理部長の年収レンジは「700〜1,400万円」とみておくとよいでしょう。規模別の年収目安は以下の通りです。
- 中小規模上場子会社(時価総額500億円未満):約700~1,000万円
- 中堅規模上場子会社(時価総額500~2,000億円):約900~1,200万円
- 大規模上場子会社(時価総額2,000億円以上):約1,000~1,400万円以上
業種や親会社との関係性、地域、さらには個人の能力や経験、実績によって大きく異なります。
ベンチャー・スタートアップ企業
ベンチャー・スタートアップ企業の経理部長の年収レンジは「800〜1,200万円」です。またフェーズ別の年収目安は以下の通りです。
- 資金調達フェーズ(シリーズA~C):800〜1,000万円前後
- プレIPO・上場直前フェーズ:1,200万円前後
なお、ベンチャー・スタートアップ企業では、規模や企業ごとの独自性によって、年収には大きな違いがみられることが一般的です。
ベンチャー・スタートアップ企業への転職を考えている方は、実際の求人を確認しつつ、ご自身のキャリア設計、ライフスタイルと照らし合わせながら検討してください。
中小企業
中小企業の経理部長の年収レンジは「500〜800万円」です。中小企業の場合、必ずしも企業規模と年収が比例しません。
特に小規模企業の場合、経理に加えて総務や広報などの他のバックオフィス部門の責任者を兼任することも多く、その業務量の多さや責任範囲の広さに応じて年収が変動する可能性があります。
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経理部長の5つの重要業務
(CPASSキャリア編集部 作成)
経理部長の役割は幅広いですが、なかでも欠かせない5つの業務があります。ここではその5つの重要業務について、それぞれ解説していきます。
経理業務の統括
最も基本的な業務が経理業務の統括です。具体的には、会計記録が正確かつ適時に処理されるように、経理メンバーのタスク管理や経理業務の全体スケジュールのマネジメントを行います。
適切なマネジメントを行うことで、他の4つの重要業務をより効率的に進めることができます。
また、部門内にとどまらず、経営陣と現場をつなぐ重要な役割も担います。
経理部門の責任者として現場を統括しつつ、企業のあらゆる数字を適切に管理し、経営判断に役立つ情報を経営陣に提供する、非常に重要なポジションです。
決算業務(月次・四半期・年次)の最終責任
経理部長は月次・四半期・年次の決算業務の最終責任を負います。具体的には、決算プロセスの指揮や各種開示資料の最終チェックなどを行います。
万に一つでも誤りがあれば、企業全体の信用にも影響しかねない重要な業務です。
また、上場企業の経理部長ポジションであれば、有価証券報告書や決算短信などの開示資料を最終的にチェックする役割も含まれます。
資金繰り管理とキャッシュフローの最適化
資金繰りやキャッシュフローの管理も、経理部長の重要な業務の一つです。
現状を把握・分析したうえで、最適な資金配分を決定したり、将来の資金需要を予測して資金調達の提案を行ったりします。
単に過去の数字を集計するだけでなく、そこから企業の未来を読み取り、財務戦略を立案・実行することが求められます。
なお、大手上場企業などで経理部長と財務部長の役割が分かれている場合は、資金管理の業務は財務部長が担当することもあります。
監査法人・税理士・金融機関との折衝
経理部長は監査法人・税理士・金融機関との窓口として、以下のような業務を行います。
- 監査法人:主に上場企業において、半期レビューや監査における対応の統括を担う
- 税理士:税務相談や税務調査対応を行う
- 金融機関:融資枠交渉など資金調達や財務戦略に関する折衝をする
上記の業務にあたっては、関係者との交渉力だけでなく、信頼関係を築く力も求められます。
また、先述した通り、大手上場企業などで経理部長と財務部長の役割が分かれている場合、資金調達や財務戦略に関する業務は、財務部長が担うこともあります。
経理メンバーの育成・マネジメント
経理部長として、経理メンバーの育成やマネジメントも重要な仕事です。
具体的には、教育プログラムの策定や適切な人材配置を行うほか、チーム全体の専門性向上やコンプライアンス意識の育成にも責任を持ちます。
また、経理部門以外のマネージャーに対する財務教育にも携わり、部門ごとにより有効な予算管理や収益性分析を行える体制を整えます。
高年収の経理部長に求められるスキルとは
経理部長の年収はスキルセットにより変動する傾向があります。
そこで、より高い年収を実現する経理部長に必要とされるスキルについて、以下の主要な2つのポイントに分けて解説します。
高度な専門知識と豊富な実務経験
経理部長として高年収を実現するためには、経理や財務に関する高度な知識と豊富な実務経験が必須です。
先述した通り、月次・四半期・年次の決算業務はもちろん、資金繰りの管理や監査法人・金融機関との折衝、さらに経理部門の統括など、上級管理職として求められる幅広いスキルと経験が必要とされます。
特に、会計基準は改正などが定期的に行われるため、最新の情報を適時に入手し、自社への影響を検討し、対応する能力が求められます。
いずれにしても、企業全体の戦略を踏まえた意思決定や判断を行える力が必要とされます。
求められるスキルの水準は、企業規模や適用する会計基準などによっても異なります。
例えば、IFRSを適用している企業であればIFRS(国際財務報告基準)、米国上場している企業は米国会計基準など、複数の会計基準を相互変換できる知見が求められることでしょう。
また、上場企業では、連結決算や有価証券報告書、決算短信などの開示資料の作成が求められます。
そして、投資家への説明など、IR業務に関する知識と十分な経験も不可欠です。
経営課題を解決に導く提案力・実行力
経営陣と同じ視座で経営課題を特定し、数字を根拠とした解決策を提言する能力も重要です。
例えば、ROI(投資収益率)やペイバックピリオド(投資回収期間)などの指標をもとに新規事業の投資判断を助言したり、海外展開や資金調達のタイミングを提言したりできると、経営課題に直接貢献する人材として高い評価を受けられる可能性が高まります。
もちろん、単に提言するだけでなく、実行に移す力も求められます。
先に挙げたスキルともつながりますが、組織全体を動かしながら、部門や会社全体を巻き込んで課題を解決する力が必要です。
経理部長のその先のキャリアパス
(CPASSキャリア編集部 作成)
経理部長になったその後は、どのようなキャリアを描けるのでしょうか。以下の5つのキャリアパスをそれぞれご紹介します。
CFO(最高財務責任者)
会計ファイナンスキャリアの頂点の一つがCFO(最高財務責任者)です。CFOの最大の魅力は、組織に対する影響力が大きいことです。
なかでもスタートアップ企業のCFOは裁量が非常に大きく、経営陣の一員として会社の成長戦略や将来を左右する重要な意思決定に深く関わることができます。
例えば、新規事業の推進や海外進出、M&A実行などの経営判断にあたっては、CFOが主導します。
会社のフェーズによって求められる役割も変動するため、日々変化に富んだ業務に関わることができるのも魅力です。
スタートアップ企業のCFOであれば、年収は1,000万円〜2,500万円程度が見込めます。
さらに、ストックオプションを得られるケースもあり、場合によっては億単位の資産を築くチャンスもあります。
CAO(最高管理責任者)
CFOが企業経営における“攻めのキャリア”とすると、CAO(最高管理責任者/Chief Administrative Officer)は“守りのキャリア”といえます。
組織運営全般を統括するCAOは、経営陣の右腕として、経営戦略の構築および推進に直接貢献できる点が魅力です。
組織運営や人事戦略をリードするバックオフィスの最高責任者として、リスク管理や業務オペレーションの最適化を進めながら、企業成長に不可欠な組織基盤づくりを担います。
スタートアップ企業のCAOであれば、年収は700万円〜2,000万円程度が見込めます。CFO同様、ストックオプションを受けられる場合は、大きな資産形成も期待できます。
監査役・社外取締役
CFO(最高財務責任者)の次のキャリアとして想定されるのが、監査役や社外取締役です。
経営の健全性やコンプライアンス、透明性などの監視や監督を担う、まさに「経営の番人」とも言えるポジションです。
大企業であれば、年収2,000万円超を見込めます。
独立(会計コンサルタント、顧問)
会計コンサルタントや経理顧問として独立するキャリアパスも考えられます。
独立にあたっては知識や実務経験、営業力が必要ですが、自身の裁量で理想の働き方や年収の実現を目指せる点が最大の魅力と言えるでしょう。
年収については、本人の経験やスキル、営業力によりますが、CFOレベルのベテラン人材であれば年収2,000万円超を見込めます。
外資系企業のFP&Aという道も
外資系企業のFP&Aは、グローバルな視点での財務戦略の立案や、数字に基づいた意思決定をリードするポジションです。
年収はシニアマネージャー・ディレクタークラスで1,500〜2,500万円が目安となります。CFOを目指す上でも武器になるキャリアの一つです。
経理部長がキャリアップのためにできること
経理部長がキャリアアップのためにできる2つのポイントを解説します。
専門スキルの深堀りやデジタル関連の知識取得で市場価値を高める
経理部長としての市場価値を高めるには、ハードスキルの強化や資格の取得が有効です。
ただし、資格取得に関しては“合格”を目指すだけではなく、資格取得過程で得た知識を業務に活かすことが重要です。
特に、最新の会計基準についてもしっかりと勉強しておきたいところです。
例えば、収益認識基準や新リース基準、サステナビリティ開示の知識といった専門知識を深めておくことが重要です。
ハードスキルについては財務・会計・経理領域だけでなく、データアナリティクスやブロックチェーンを含む次世代技術など、デジタル関連スキルの習得も検討したいところです。
経理以外の知識を身に付け、経験を積み、さらなるキャリアアップを目指す
人事・労務・財務・法務など経理領域以外の知識を身に付け、経験を積むことも、キャリアアップにおいて重要です。
経理部長として活躍するだけでなく、より経営の中核を担うCFOポジションにチャレンジする道も開かれています。
経理部長の次のステップの一つであるCFO(最高財務責任者)は、金融機関や投資家、監査法人、社内の非財務部門などと対話する機会が多いポジションです。
こうした多様なステークホルダーとの対話においては、経理領域以外の知識や経験が強みになりえます。
加えて、経理分野以外のメンバーと業務を行うことは、人的ネットワークが広がるきっかけにもなるため、紹介によってCFOや監査役の道が開かれるなど、キャリアアップへの一つのきっかけになる可能性を秘めています。
人的ネットワークの構築の一つの方法として、業界特化のコミュニティに参加してみるのもいいでしょう。
その一つが、会計ファイナンスのプロフェッショナルが集まるコミュニティ「CPASS」です。
「CPASS」では、会計ファイナンス人材向けのカンファレンスやCFO交流会といったイベントを定期的に開催しています。
こうした業界特化の交流会に参加してみるのも、ご自身のキャリア形成に役立つはずです。
経理部長の転職でよくある質問
ここからは、経理部長の転職に関する代表的な3つの質問に答えつつ、その内容をわかりやすく解説します。
経理部長クラスの求人は多いですか?
他のポジション(スタッフやマネージャークラス)と比べると、多いとは言えません。そのため、限られたチャンスをものにするための準備が重要です。
一方で、経理部長を含むハイクラス人材の需要は年々高まっており、特に中小企業やベンチャー企業では採用を強化している場合もあります。
また、経理部長に求められるスキルや知識は業界や業務を問わず汎用性が高いため、異業種にチャレンジできたり、現職よりも規模が大きい企業への転職が実現できたりすることもあります。
昇進ではなく、中途採用で経理部長として転職することは可能ですか?
可能です。先に述べた通り、人手不足が深刻な中小企業や、さらなる成長を目指すベンチャー・スタートアップ企業では、組織の中核を担う経理部長を外部から採用するケースもあります。
本人の経験と実績はもちろん、企業が求める要件に合った経験や実績を持っているかどうかが重要です。
また、こうした求人の多くは非公開で募集されることも多いため、経理部長ポジションへのキャリアアップを検討している方は、転職エージェントに相談するのも有効です。
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中途採用の経理部長ポジションは非常に多忙なイメージがありますが、実際はどうですか?
業界や業種、企業の規模によって、経理部長は非常に多忙なポジションになることもあります。
特に月次・四半期・年次決算の時期は業務が集中し、経理部門の責任者として大きなプレッシャーを感じることも多いでしょう。
また、経理と財務の両領域を担当する場合は、さらに業務量が増し、多忙になることも少なくありません。
一方で、裁量の大きさや自己成長の面では非常に充実した環境があります。
キャリアアップを目指す方にとって、中途採用で経理部長ポジションに挑戦することは、大きな糧になるでしょう。
まとめ
経理部長の年収は企業規模だけでなく、実務経験やスキルセットなど、個人の市場価値によっても大きく左右されます。
そのため、戦略的に経験やスキルを積むことで、経理部長へのキャリアアップと理想の年収の実現を図れることでしょう。
長期的なキャリア設計に悩む方は、ぜひ会計ファイナンス人材特化型転職エージェント「CPASSキャリア」への登録をご検討ください。
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記事の監修者
松岡 宏紀
2007年、公認会計士試験に合格。EY新日本有限責任監査法人にて、監査・アドバイザリー業務に加え、社内外での研修講師や研修プログラムの作成・管理などに従事。現在、CPAエクセレントパートナーズ株式会社において、コンテンツの作成、監修を担当。